NECは、AIに席を与えた——エージェントAI時代に人は何を担うのか
部門長も、平社員も「AI」——そんな部署をNECが新設し、組織図にAIの席が用意された。可能にしたのは「エージェントAI」。任せた仕事を、自律的に最後までやり遂げるAIだ。どこまでをAIに任せ、何を人の手に残すか。役割分担の設計が企業の課題になる——その未来の先行例が、この部署である。
この記事のポイント
① NECは、部門長から平社員まで部署全体をAIで構成した「コーポレートAI・Workforce部門」を新設した。職務の定義から遂行までAIが自ら進め、人は品質管理やガバナンスの統制を受け持つ
② 「エージェントAI」は、目標に対して道筋を立てて実行し、自律的に仕事をやり遂げる。任せられる範囲が広がるほど、人が担う役割の輪郭が問われていく
③ 部署や工程をまるごとAIに任せる動きはNECにとどまらない。総合電機大手の日立製作所は、システム開発の全工程をエージェントAIが担える仕組みを発表した
組織図に、AIの席ができた
NECが8月に新設した「コーポレートAI・Workforce部門」は、部門長から平社員まで、部門の役割をAIが担う。必要な仕事を考えるところから実行までをAIが自律的に進める。人は仕事の品質担保やルール逸脱を防ぐ統制(ガバナンス)に回る。
設立前の実証では、役員会議向けの経営分析やリスクの予兆検知をAIが一貫して手がけ、同業務にかかる時間を約7分の1に短縮したという。部署を成り立たせているのは、「エージェントAI」だ。どんなAIなのか。
チャット型AIとの違い
チャット型の生成AIは、質問に答え、頼めば資料も作る。ただ、人に渡したところでAIの出番は終わる。合っていたのか、役に立ったのか、AI自身は知りようがない。確かめて次を決めるのは人だ。
エージェントAIは、この先を自分で続ける。仕事を振り返り、間違いに気づき、データを取り直し、修正する。次の一手を自分で決められる。目標を渡すだけで仕事が最後まで進むのは、この繰り返しを人の承認なしに回せるからだ。
遠い未来の構想ではない。たとえばソフトウェア開発の現場では、コードを書き、動作を確かめ、直すところまで任せる使い方が日常になっている。エージェントAIそのものはすでに多くの現場で稼働している。
エージェントAI時代に人は何を担うのか
近年、企業のAI活用は社員にAIツールを配る形で広がってきた。全社員にアカウントを配り、研修を行い、どう使うかは一人ひとりに委ねる。AIは頼まれた分だけ働き、仕事の担当はあくまで人だ。成果も、使い手の腕に懸かっていた。
NECの新部署では、仕事の担当者がAIになる。役割の異なる複数のAIが職務を受け持って働き、マネージャー役のAIが部下役のAIの働きぶりを管理する。人は見守る側に立つ。組織図にAIのみで構成する部署が正式に載るのは、国内の大手企業ではほとんど例がない。
NECは5月に公表した2030中期経営計画で「AIの社会実装」を成長戦略の柱に据え、企業のAX(AIトランスフォーメーション)を支援する事業で2030年度に売上収益1兆3,000億円と、2025年度の約2倍を目指す。新部署はこの戦略の実践の場でもある。培ったノウハウは、他の企業にも提供していく計画だ。
NECだけではない。日立製作所は7月、システム開発の全工程をエージェントAIが担える仕組みを発表した。まず自社内の開発で使い始めており、2027年度には工程全体の生産性を3割高める計画を掲げる。
いずれも、まだ一部の先行例である。ただ、これらが投げかける問いは共通している。どの仕事をAIに任せ、人は何を担うか——この線引きが、企業の設計課題になっていく。
「AIネイティブカンパニー」を掲げるNECは、人の役割はAIが働きやすい環境の整備や、AIには担えない意思決定・変革の実行などにシフトするとみる。国内の労働人口が減少する中、AIを代替ではなく人の能力を拡張する「増力」とする考え方だ。
任せた仕事が、数字になる
AIに任せた仕事の量は、すでに数字になっている。エージェントAIは働くほど計算を重ね、データを読み書きする。データの記憶を担う半導体メモリー大手キオクシアの4〜6月期決算は、純利益が前年同期の46倍に膨らみ、同社はエージェントAIの普及拡大を需要の背景に挙げている(関連記事:純利益46倍のキオクシア決算が映す「転換点」、AIは使われる段階へ)。
任せた仕事の成果は、まだ決算の数字に埋もれている。AIがどれだけ利益を押し上げたのか、切り出して示す会社は少ない。エージェントAIに仕事を任せる流れは止まらない。任せた先で人は何を担い、何を生み出すのか——各社が決算で語り始めたとき、答えは数字になる。