まだ0.1%、それでも足りない計算資源——Anthropicの目論見書が映す需給のずれ

2026.10.27

大企業がClaudeに使う額は、まだ各社の費用全体の0.1%にも届かない。それなのに、米Anthropicの計算資源はすでに需要に追いついていない。上場に向けて公開した目論見書は、こうした需給のずれを抱えながら、同社が4〜6月期に営業黒字へ転じた姿を映し出している。

THE AI TIMES JAPAN 2026.10.27 21:30 6 min read
まだ0.1%、それでも足りない計算資源——Anthropicの目論見書が映す需給のずれ

この記事のポイント

① 顧客の大企業がClaudeに使う額は、平均で各社の費用全体の0.1%に届かない。同社は、大企業への浸透はまだ初期の段階にあるとみる

② 一方で、あらかじめ確保した計算資源では、需要をまかないきれていない。不足分は割高な短期の調達で補っており、その量は当面増える見込みだ

③ 計算資源が逼迫する中でも、4〜6月期は売上高が前年同期比約15倍の115億5,500万ドル(約1兆8,200億円)となり、営業損益は9億7,400万ドルの黒字に転じた

大企業のClaude利用は、まだ費用全体の0.1%未満

Anthropicは10月26日(米国時間)、目論見書を含む登録届出書(S-1)を公開した。ナスダックへの上場を申請しており、日本でも公募を行う。IPO後も、7人の共同創業者が自らの持つ会社を通じて議決権の50.1%を握る。

年間の売上高は、2023年からの2年で100倍を超えた。2026年1〜6月期も162億8,600万ドルと、前年同期の14倍に伸びた。年10万ドル以上の利用がある顧客は、2023年末の約20から、2026年9月末には1万1,900を超えた。

米フォーチュン誌が選ぶ売上高上位500社(Fortune 500)では、5割超がこの水準に達した。ただし、7〜9月期にこれらの企業がClaudeに使った額は、平均で各社の費用全体の0.1%に満たない。利用額が大きい上位10社でも1%未満だった。同社は大企業への浸透はまだ初期の段階にあるとみる。

需要が、確保した計算資源を上回る

ところが、研究やサービスの提供に充てる計算資源は、あらかじめ確保した分ではまかないきれていない。必要な量が使える量を上回る状態が続いてきたと、同社は説明する。

既存の顧客も、利用を急速に増やしている。1年前から取引のある顧客(個人向けの定額プランを除く)に限っても、7〜9月期の売上は前年同期の約9倍に膨らんだ。1〜6月期の売上の8割は使った量に応じた従量課金で、利用の伸びが計算資源の消費に直結する。

Anthropicは計算資源の大半を、通常は利用開始の12〜18カ月前に、複数年の契約で押さえている。すぐには増やせないため、長期の枠を超える分は割高な短期の調達で補う。

ただし、お金を出せば買えるわけでもない。過去には、クラウド事業者が応じられる以上の計算資源を求めたこともある。契約を結んでいても、全量が予定どおり届くとは限らない。不足が続けば、期待される品質と規模に応えられなくなるおそれもあるとしている。

売上が計算資源コストを追い越し、採算が合い始めた

一方で、採算は急速に改善した。1年前の2025年4〜6月期、同社は売上高の1.8倍に当たる額を計算資源に費やしていた。その差は四半期ごとに縮まり、2026年1〜3月期には売上が計算資源の費用を上回った。4〜6月期には費用全体も超えた。

売上高 計算資源コスト 売上高に占める割合
2025年1〜3月期 376 944 251%
4〜6月期 787 1,390 177%
7〜9月期 1,382 2,047 148%
10〜12月期 2,040 2,945 144%
2026年1〜3月期 4,731 3,387 72%
4〜6月期 11,555 5,558 48%

(単位:百万ドル)

4〜6月期の売上高は115億5,500万ドル(約1兆8,200億円)で、前年同期比約15倍に増えた。これに対し、計算資源の費用は同4倍にとどまった。費用の大半は前もって結んだ複数年の契約で決まっており、売上ほどには増えないためだ。営業損益は9億7,400万ドルの黒字に転じた。

1〜6月期の営業キャッシュフローも39億ドルの黒字(前年同期は15億ドルの赤字)となった。最終損益は807億4,800万ドルの赤字だったが、約9割は企業価値の上昇に伴う評価損で、主に株式に転換できる借入(コンバーチブル・ノート)の評価額が膨らんだことによる。株式報酬やこうした損失などを除く調整後の純利益は、26億7,100万ドルの黒字になる。

ただし、足りない分を補う割高な短期の調達は当面増え、営業利益率を押し下げる見込みだと、同社は説明する。設備投資も大幅に拡大する計画だ。

2045年に及ぶ計算資源の契約

企業の利用の急増が、計算資源へ巨額のお金を呼び込んでいる。Anthropicが結ぶ契約は、長いものでは支払いが2045年にかけて続く。実際に使う量にかかわらず払うと決まっている分だけで、6月末時点で約2,656億ドル(約41兆7,300億円)。6月末より後に結んだものや、金額がまだ確定していないものも入れると、目論見書が個別に挙げる主な案件の合計は8,000億ドル(約126兆円)規模になる。

計算資源の土台となる半導体や電力でも、需要に供給が追いつかない状態が続く。メモリー大手の米マイクロン・テクノロジーでは、数年先まで購入を約束する顧客との長期契約が26件に増え、前払い金などは320億ドルに達した(関連記事:純利益12倍のマイクロン決算——顧客の前払い320億ドル、積み上がるメモリーの「予約」)。

米エネルギー省系のローレンス・バークレー国立研究所は、米国のデータセンターの電力消費が2030年に全体の約12%に達すると見込む。首都ワシントンやバージニア州など東部の一部では、数年先に必要な供給力がすでに不足している(関連記事:米データセンターの電力消費、2030年に全体の12%——Google・エヌビディアなどが「節電」連合、新拠点の早期接続へ)。

大企業のClaude利用は、まだ費用全体の0.1%という入り口にある。Anthropicは拡大を見込む需要に備え、20年先まで計算資源の確保に動いている。